
遺墨展作品解説ページ
このページでは、全2会場で展示している全ての作品について、読み方、意味、エピソードなどを解説いたします。
旧上田家住宅
~ 主屋1 ~
作品①
【読み方】
しんきばんこより(ばんこに)そんす
【解】
三種の神器(八咫鏡・天叢雲剣・八坂瓊曲玉)が、古より祀り伝えられている。(吉田松陰「正氣歌」より)
「正氣歌」では、楠木正成、豊臣秀吉、日本武尊等の君子達により、皇国古来からの正氣(おもい)が守られ、引き継がれて来たことを受けてこう書かれている。
【鑑賞】
昭和13年1月発刊の冊子に挟まれていたため、阿部先生が合気道、禊、古事記、玄米に出会われていない22歳の御作品と思われる。「醒石」の前の号「片石」を使われている。
ゆったりとした真面目な線の動きを感じて頂きたい。

作品②
【読み方】
ねんげみしょう
【解】
言葉を用いずに、心から心へと伝える妙境のたとえ。
仏語。釈迦が霊鷲山(りょうじゅせん)で説法した際、花をひねり大衆に示したところ、だれにもその意味がわからなかったが、ただ摩訶迦葉(まかかしょう)だけが真意を知って微笑したという故事。そこで釈迦は彼にだけ仏教の真理を授けたといい、禅宗で、以心伝心で法を体得する妙を示すときの語。
【鑑賞】
阿部先生は、一を聞いて十を知るタイプのお方であり、またそのような人を好んでいらっしゃった。この四字熟語はまさに先生らしい御作品である。


作品③
【読み方】
わへい
【解】
仲直りして平和になること。また、平和。
【鑑賞】
平成17(2005)年、ご自身の講習会で行かれたアメリカで案内された、陶芸絵付け体験の店にて絵具筆と黒色の絵の具で書かれたもの。墨と和紙で書かれる通常の御作品よりも先生の筆遣いが鮮明に分かる。
本作品を観ながら、肚を意識して利き手で先生の筆遣いを是非たどって頂きたい(注:作品には触れず離れたところで)。

~ 内蔵~
作品④
【読み方】
いちにち(いちじつ)のけいは あしたに
はじめよ
一日之計始於晨
【解】
その日一日の計画は、早朝に始めなさい。
明時代の書物「一日之計在晨、一年之計在春、一生之計在勤、一家之計在」から。
【鑑賞】
晨は「アシタ」と読み朝のことを指すもので、朝と書くこともある。春は正月を意味していて、全体では、一日の初めである朝や、一年の初めである正月にこそ計画を立てるべきである、という教訓。1日1日を大切にして御自身に厳しかった阿部先生らしい御作品。
字の大小の変化と、一行にすっきりまとまった点も観て頂きたい。
作品⑤
【読み方】
はら
【鑑賞】
二木謙三先生の
「うそつかず わがままいわず むだをせず 君を尊び 神をおろがむ」
という歌を基に阿部先生はご自身が発行されていた書道の月刊誌の巻末に、
「うそつかず わがままいわず むだをせず 息を下腹につめて 筆先に心を集中して大たんに書く」
と書かれていた。
細い線とかすれによる変化と、何よりも下半分の余白を十分に鑑賞して頂きたい。

作品⑥
【読み方】
もくしょう
黙照
【解】
思考や執着を離れて静かに心を照らし出すこと。
【鑑賞】
いずれの字も一画目で強さを出している。また、2文字目の「火」の左右の払いの強さ、太さ、終筆の違いにも注目。


作品⑦
【読み方】
わがきみは まつのうわばにおくつゆの つもりてよもの うみとなるまで
わ可君盤 松の上葉ニ於く露能 積里て四方能 海となる万天
【解】
私にとって大切なあなた(の命)は、千年の緑を変えない松の葉に置く露が、流れ集まつて世界の大きな海になる迄、永久に栄え続くことであるよ。
【鑑賞】
平安時代後期の歌人、源俊頼の歌。
本歌は「君が代は…」で始まるが阿部先生は、「いま『君が代』って耳にしただけで過剰に反応する人が居てるやろ?」と苦笑いしながら「わが君は…」に変えて書き、作品展に出展された。
歌の意味を阿部先生から教わった際、今から約1,000年前に現代人よりも壮大で豊かな感性を持っていた人がいたことに非常に感動した旨をお伝えしたところ、作品展に出展されなかった作品の中で最も良いものを下さった。


作品⑧⑨
【読み方】
まことをば さらにまことに ねりあげて けんゆういちじょの しんたいをしれ
誠をハ 更尓まこと耳 練利上介て 顕幽一如の 真諦をし連
まことをハ 更耳まこと尓 ね利上けて 顕幽一如能 真諦をし連
【解】
阿部先生は、「解説は全く致しませんが(道歌は)皆さんの心読・身読によって翁先生の真にふれて下さい」と仰っていた。
【鑑賞】
合氣道開祖、植芝盛平翁先生の道歌。(合氣道の)道歌とは、開祖が思い感じたことを五七五七七の31文字にまとめられたもの。道歌は、8mmフィルム等の映像からは分からない開祖ご自身のお気持ちや想いが大変良く分かるため、阿部先生は道歌を良く研究されていた。同じ道歌を書かれているが、色紙と短冊での違い、書かれた年齢の違い等をご鑑賞いただきたい。

作品⑩
【読み方】
うるわしき このあめつちの みすがたは ぬしのつくりし いっかなりけり
美しき こ能天地の みす可多盤 主の作りし 一家也分里
【解】
阿部先生は、「解説は全く致しませんが(道歌は)皆さんの心読・身読によって翁先生の真にふれて下さい」と仰っていました。
【鑑賞】
合氣道開祖、植芝盛平翁先生の道歌。(合氣道の)道歌とは、開祖が思い感じたことを五七五七七の31文字にまとめられたもの。
道歌は、8mmフィルム等の映像からは分からない開祖ご自身のお気持ちや想いが大変良く分かるため、阿部先生は道歌を良く研究されていた。
この作品は、私(竹田)の結婚祝いとして贈って下さったもの。
作品⑪
【読み方】
きんしつわす
【解】
「琴」は小型の琴、「瑟」は大型の琴で、琴と瑟とは常に合奏し音がよく調和するの意から、人と人の仲、特に夫婦の仲がむつまじいことのたとえ。
「琴瑟相和(きんしつあいわす)」ともいう。
【鑑賞】
金婚式を迎えられる夫婦への贈り物として、ある自治体から毎年色紙を依頼されていたもの。


作品⑫
【読み方】
まさかつあがつ みおやごころに あいきして すくいいかすは おのがみたまぞ
正勝吾勝 御親心に 合氣して すくい活か寸は 於のが身魂ぞ
【解】
阿部先生は、「解説は全く致しませんが(道歌は)皆さんの心読・身読によって翁先生の真にふれて下さい」と仰っていた。
【鑑賞】
「正勝吾勝」とは、古事記に登場する「正(まさ)勝(か)吾(あ)勝(がつ)勝(かち)速(はや)日(び)天(あめ)之(の)忍(おし)穂(ほ)耳(みみの)命(みこと)」という神様の御名前の一部であり、合気道開祖植芝盛平翁先生が「『正勝』とは屈せぬこと、『吾勝』とはたゆまぬこと」とも仰っていた。
作品⑬
【読み方】
しんしんじょたり
申々如也
【解】
背筋がすっと伸びて、のびのびとして飾らない様子。『論語』の述而(じゅじつ)篇にある、孔子の私生活でのくつろいだ姿を描いた一節の一部。
【鑑賞】
「申」の縦線で締めたのを受け、「々」は軽く書いている点や、「申々」の左右にある余白、横長の「如」、「也」の左右にある余白など、みどころの多い御作品。


作品⑭
【読み方】
にわとりの しずかに じょやを ねたりけり
鶏の し徒可耳 除夜を 寝多利介里
【解】
江戸時代を代表する俳人・小林一茶(こばやしいっさ)が詠んだ有名な俳句。
(大晦日の夜、世間が除夜の鐘などで騒がしい中でも)鶏たちは騒ぐことなく、静かに眠っていることだよ。
【鑑賞】
阿部先生の天之(あめの)武産(たけむす)合氣塾道場では毎年、大晦日の夜から翌日(元旦)にかけて越年稽古を行い皆で新年を迎え祝うのだが、新しい年の干支にちなんだ故事成語等を色紙に数枚書かれ、直会(なおらい)の際に年男や年女の方に贈られていた。
90歳の御作品であることが落款から分かる。
作品⑮
【読み方】
せいしんのきしょうず
清心之氣生
【解】
念や濁りがなく、清らかで澄み切った心、清き明き心、曇りがなく私欲のない素直な心(誠の心)のこと。
【鑑賞】
本遺墨展で展示している御作品には「氣」という字が多くあり、それらをみくらべて違いを感じて頂きたい。

~ 離れ ~
作品⑯
【読み方】
あいき
【鑑賞】
「合氣」と書かれた御作品は多いが、「合気」は珍しい。ゆったりと書かれている阿部先生のお気持ちを是非とも感じ取って頂きたい。


作品⑰
【読み方】
みのるほど かしらのさがる いなほかな
みのる本と かしら能さ可る いなほ可那
【解】
稲の穂は実が入ると重くなって垂れ下がってくる。学問や徳行が深まるにつれ、その人柄や行為がかえって謙虚になることのたとえ
【鑑賞】
御自らに厳しかった阿部先生らしい御作品。
大変細い筆で繊細に書かれており、筆遣いも鑑賞のポイント。また、永守重信市民会館に展示してある大きな作品との対比もお楽しみ頂きたい。
作品⑱(複写)
【読み方】
がいじゅうないごう
外柔内剛
【解】
外見は物柔らかで穏やかそうに見えるものの、内面にはしっかりとした強い意志や芯を持っていること・
【鑑賞】
「武之名言」であることを前提にご鑑賞いただきたい。
本作品は、門下大学の合気道部創部45周年の記念として書いて合気道部に贈られたものだが、その後の部室火災で本作品は焼失してしまい現存しない。
ただ、あまりにも素晴らしい御作品であったため合気道部に贈られる前にコピーを残しており、今回は複写ではあるがその剛柔自在の線をご覧頂きたい。

永守重信市民会館

作品⑲
【読み方】
まはこれたからなり
間是寶
【鑑賞】
アメリカのロスアンゼルスで合気道を指導されている「雷(いかずち)道場」道場長の松岡晴夫先生からお借りした御作品。
作品⑳
【読み方】
がんさたんりき
【解】
力は胆(肚の力)に勝てず、胆は作(技)に勝てず、作は眼(眼力)には勝てない。
武道全般の極意。
【鑑賞】
阿部先生は、普段は穏やかで優しい眼をされていたが、合気道や書道の時の眼は非常に厳しく、傍に居ててもヒヤリとする程であった。
なお、大阪府吹田市立武道館「洗心館」には横書きされた作品が飾られている。
